そこに、俺の名前はなかった。

RIKUの記録

そこに、俺の名前はなかった。

初めて、彼女の家に入った日のこと。

ちゃんとしてた

部屋に入った瞬間、少しだけ緊張がほどけた。

思っていたより、ずっと整っていた。

引き出しにはチャイルドロック。

危ない場所にはベビーゲート。

その日は寒かった。

ストーブは、ストーブガードでちゃんと囲まれていた。

小さい体が触れないように。

聞けば、灯油は4階まで自分で運んでいるらしい。

子供を抱えて。

正直、想像した。

階段を上る姿を。

ちゃんとしてるな、と思った。

キッチンから匂いがした。 手料理だった。

大変なはずなのに、彼女は笑っていた。

今思えば、あの時少し尊敬していたのかもしれない。

離れない

その子は、ずっと俺のそばにいた。

しがみつく。 笑う。 離れない。

アンパンマンのおもちゃが多かった。

車のおもちゃもあった。

襖の中のおもちゃ入れに、きちんと片付けられていた。

「それ、とって」

小さな手が指さす。

俺は立ち上がった。 襖を開けておもちゃをとった。

ふと、上を見た

目に入ったのは引き出し。

少しだけ開いていた。

そこに、男物の服。

胸がざわついた。

そして、壁の額縁。

子供の名前で作られた詩。 母の名前。

父の名前。

知らない男の名前。

一気に温度が下がった。

嫉妬した。

怒りもあった。

彼女と子供を置いていった男。

それでも、そこに“父”として名前がある。

許せなかった。

消えてほしいと思った。 事実ごと。

今なら分かる。

あれは未熟だった。

でもあの時の俺は、本気だった。

父になろうとしていた。

後日、彼女は修正ペンでその名前を消していた。

何も言わなかった。

でも、少しだけほっとしていた。

あの時の俺は、まだ父じゃなかった。

RIKUの記録

連れ子と再婚し、父親になるまでの記録。

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